「国の借金は1000兆円を超えています。だから増税が必要です」――
テレビや新聞で耳にするこの言葉に、あなたも一度は違和感を抱いたことがあるのではないでしょうか?
そもそも、「政府の借金」とは誰に対するものなのでしょう?本当に国債を返済する必要があるのでしょうか?なぜ一部の専門家は「国債発行は問題ない」と言い切るのでしょうか?
本記事では、日本の財政運営の仕組みと、国債の本質をわかりやすく解説します。日本銀行による国債の引き受け、MMT(現代貨幣理論)、通貨発行益などのトピックも交えながら、「本当に危ないのか?」「何が誤解されているのか?」という疑問にお答えします。真実を知る一歩として、ぜひ最後までご覧ください。

「国債は発行しても問題ない」と言われる理由
政府の借金と家計の借金は違う
「国の借金が1000兆円を超えた」といった表現はニュースなどで頻繁に使われますが、これはあくまで政府の債務残高(国債残高)を指しています。
しかし、ここで重要なのは、政府の借金=家計の借金と同じではないということです。
家計(個人や家庭)の場合、借金を返せなければ破産し、資産を差し押さえられる可能性があります。一方、政府は自国通貨を発行できる立場にあるため、最終的には通貨を発行して国債を償還する手段も持ち合わせています。
つまり、政府の借金には破産という概念がないのです。
この点を混同すると、「財政赤字=問題」という思い込みにつながりやすくなります。
自国通貨建ての国債は破綻しないのか?
「国債 発行は問題ない」という主張の根拠のひとつに、自国通貨建ての国債であれば返済不能(デフォルト)にならないという点があります。
たとえば日本は、日本円という自国通貨で国債を発行しています。外国からドルを借りているわけではないため、円を発行すれば理論上、返済不能には陥りません。
実際、アメリカやイギリスも自国通貨建ての国債を多く発行しており、「財政赤字=危機」という見方には慎重です。
国名 | 自国通貨建て国債 | 通貨発行権の有無 | 財政破綻の懸念 |
---|---|---|---|
日本 | ほぼ100% | あり(円) | 低い |
ギリシャ | 多くがユーロ建て | なし(EU共通通貨) | 高かった(過去に危機) |
アメリカ | ほぼ100% | あり(ドル) | 低い |
このように、「通貨を発行できる国の国債は返せなくなることがない」という考え方が、国債発行は問題ないとされる論拠のひとつです。
国債があっても日本がデフォルトしない理由
国債が膨らんでいるにもかかわらず、日本の信用格付けは一定レベルを維持しており、国債の金利も非常に低い状態が続いています。これは、投資家が「日本は返済不能にはならない」と見なしているからです。
また、日本の国債の9割以上は国内で保有されており、外国からの借金に依存していないことも、信用力の高さにつながっています。仮に日銀が保有国債を増やすことで金利が変動しても、中央銀行と政府の協調によりコントロール可能と見なされています。
結論として、「財政赤字はすぐには問題にならない」というのは、通貨発行国としての前提に立った現実的な認識であり、そこから「国債発行は問題ない」という議論が導かれているのです。
国債は誰が返すのか?|「政府の借金」の仕組み
国債の返済先は民間?それとも日銀?
国債の購入者は主に、国内の金融機関、年金基金、生保会社、日銀などです。
以下のように、買い手の構成は多様ですが、最大の買い手は日銀となっています。
保有者 | 構成比(概算) |
---|---|
日本銀行 | 約50% |
民間金融機関(銀行・保険など) | 約30% |
公的機関(年金など) | 約10% |
海外投資家 | 約5% |
その他 | 約5% |
つまり、「政府の借金は誰に返すのか?」という問いに対しては、日銀や国内金融機関に返すというのが実態です。そして、日銀に対して返すということは、政府と中央銀行が同じ国の中でお金をぐるぐる回しているだけという見方もできます。
将来世代にツケを回しているという主張の根拠
「国債を発行しすぎると将来世代が負担することになる」という意見があります。これは、将来、国債の元利払いが増え、社会保障や教育などの政策支出が圧迫される懸念があるというロジックです。
しかし、これには反論もあります。
例えば、今の世代が国債発行で経済を活性化すれば、将来世代がより豊かな社会を受け取れる可能性もあるという視点です。これはいわば、「投資と回収」の問題であり、単純に「借金=悪」とするのは早計です。
実際に「返さない国債」は存在するのか?
結論から言うと、「形式上返しているが、実質的には返済不要のように回している国債」は存在します。
たとえば、償還期限が来た国債を新たな国債で借り換える(借り換え債)という形で、永続的に国債を発行し続けることも可能です。
また、日銀が保有する国債は、政府と日銀の会計を統合すれば「事実上の相殺」とみなすこともでき、実質的な返済負担は発生していないとする立場もあります。
さらに近年では、「永久国債(償還しない前提の国債)」を導入する議論もあり、「そもそも返す必要のない国債」が存在する余地も見えています。
日本銀行と国債引き受け|財政ファイナンスの現実
国債を日銀が買い取ると何が起きる?
近年、日本銀行は大量の国債を買い取る政策(量的緩和)を続けています。これは、日銀が市中の金融機関から国債を買い取り、市場に資金を供給することで、金利を下げ、インフレ率を上昇させようとする目的があります。
この「日銀 国債買い取り」が進むと、以下のようなことが起こります。
影響範囲 | 内容 |
---|---|
金利 | 国債利回りが低下し、全体の金利が下がる |
銀行貸出 | 銀行が保有国債を手放し、企業への貸出が増える可能性 |
財政余地 | 政府が安定的に資金を調達しやすくなる |
通貨供給量 | マネタリーベース(資金量)が増える |
つまり、「日本銀行が国債を引き受ける(=買い取る)」ことは、一種の財政ファイナンス(政府の赤字補填)と見なされる一方で、インフレ圧力が高まらなければ通貨安定も維持されます。
市場経由と直接引き受けの違い
「日銀が国債を買っている=直接引き受けでは?」と誤解されがちですが、実際には「市場経由」での買い取りが行われています。
区分 | 内容 |
---|---|
市場経由 | 政府が発行 → 市中金融機関が購入 → 日銀が市場から購入(現在) |
直接引き受け | 政府が発行 → 日銀が直接引き受け(財政法5条で原則禁止) |
つまり、現在の日本は財政法上の“建前”を守りつつ、実質的には日銀が国債を支える構図となっています。
これは「間接的な財政ファイナンス」と呼ばれることもあり、「形式を守って実質を変える」グレーな運用とも言えます。
財政規律が崩れるってどういうこと?
「日本銀行が国債を買い続ければ、財政規律が崩壊する」と懸念されるのは、政府にとって資金調達があまりに容易になるためです。
つまり
- 課税せずに通貨発行(=国債発行→日銀が買う)で支出が可能
- 政治家が人気取りのバラマキ政策を連発しやすくなる
- 将来的なインフレ制御が困難になるリスク
このように、通貨発行による赤字補填は短期的には魅力的でも、長期的には財政破綻の種になりかねないという警戒感から、「財政規律を守れ」という声が出てくるのです。
MMT(現代貨幣理論)と「国債返済不要」論
MMTとは?インフレまで通貨を発行していい理論
MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)は、
「政府は自国通貨を無限に発行できるため、財政赤字は問題ではない」とする新しい経済理論です。
MMTの主張はおおむね次の通りです
- 税金は「歳入」のためではなく、「インフレ調整」のためにある
- 政府支出は、まず通貨発行でまかなう
- 制約となるのは財源ではなくインフレ率である
この理論に基づけば、通貨発行で国債を“返さなくてもよい”という考え方が成立します。日本では「MMT 日本版」として一部の政治家が採用を示唆したこともありますが、未だ公式には採用されていません。
MMTが実際に採用されている国は?
MMTは理論的には注目されているものの、正式に政策として導入された国は存在しません。しかし、コロナ禍の経済対策としてアメリカや日本などが採った「巨額の赤字支出+中央銀行の国債買い取り」は、事実上のMMT的運用とも言われました。
国名 | MMT採用状況 | 実質的な運用例 |
---|---|---|
アメリカ | 未採用(主流派は否定) | パンデミック時のQE+給付金 |
日本 | 未採用(学界では議論) | アベノミクス+コロナ対策 |
アルゼンチン | 採用に近い(過剰発行) | 高インフレへ移行 |
MMTには「インフレの制御が極めて難しい」という課題もあり、バランスの取れた運用が極めて難しいとされています。
通貨発行益(シニョリッジ)の正体とは
通貨発行益(シニョリッジ)とは、政府や中央銀行が紙幣や通貨を発行することで得る経済的利益のことです。
たとえば、1万円札の印刷コストは20円未満ですが、それを流通させることで1万円の購買力を得るという差額がシニョリッジです。
この仕組みは、以下のように財政に貢献します:
- 政府が発行益を使って国債を買い取れば、事実上「無利子で財政支出」可能
- 通貨価値が維持される限り、返済不要の資金源として機能
しかし、発行益の濫用はインフレを引き起こし、最終的に通貨への信認を損なうリスクがあります。
つまり、「通貨発行益 日本では使えるか?」という問いに対しては、慎重にバランスを取れば可能性はあるが、使いすぎは危険というのが経済学的な結論です。
国債発行の限界とリスク|本当に「問題ない」のか?
国債残高が増え続けると何が起きる?
「国債は発行しても問題ない」という意見がある一方で、国債残高が累増し続けることには無視できないリスクもあります。
2025年時点で、日本の国債発行残高は約1100兆円を超え、GDPの2倍以上に達しています。短期的には問題が顕在化しにくくても、以下のような「副作用」が徐々に現れる可能性があります。
リスクの種類 | 内容 |
---|---|
金利上昇リスク | 国債が多すぎると、投資家が将来的な金利上昇を警戒して長期金利が上がる可能性 |
信認低下リスク | 財政の健全性が疑われ、通貨の価値や国債の格付けが低下する可能性 |
通貨下落リスク | 円が売られ、インフレ・輸入物価の上昇を招くリスク |
また、国債の利払い費用は毎年20兆円前後にのぼっており、将来的には社会保障や教育予算を圧迫する可能性も指摘されています。
そのため、一定の「財政規律」を保つことは、信頼される国家運営にとって不可欠です。
永久国債という解決策はあり得るのか
一部の経済学者や政治家の間では、「国債は返済しないという前提で設計するべきでは?」という議論があり、その一環として「永久国債案」が注目を集めています。
永久国債とは:
- 償還期限が存在しない(返済不要)
- 利払いのみを続ける設計
- 原理的には国の恒久的な借金となる
この仕組みが導入されれば、政府は国債返済のプレッシャーから解放され、将来世代への負担軽減にもつながる可能性があります。
しかし、課題もあります:
- 通貨の信認を保てるかどうか不透明
- 金利上昇時の利払い負担増加
- 国際的な投資家の反応(=日本国債離れ)
よって、「国債 永久債案」は理論的には魅力的でも、実現には政治的・経済的な慎重さが求められるのが現状です。
財政破綻のリスクは本当にゼロなのか?
よく議論されるのが、「このまま国債を増やし続けても財政破綻は起きないのか?」という疑問です。
日本のように自国通貨建て国債を発行している国は、技術的には破綻しないとされています。これは、通貨発行権(シニョリッジ)を持っているためです。
しかし、破綻とは「債務不履行」だけを指すわけではありません。
以下のような形で「事実上の破綻」が起きる可能性は十分あります。
破綻の形 | 内容 |
---|---|
インフレによる実質負担の増加 | 物価上昇により国民生活が困窮し、信頼を失う |
税負担の急増 | 将来、財政再建のために大幅な増税を強いられる可能性 |
金利負担による政策制限 | 利払いが予算を圧迫し、他の重要政策への資金が回らなくなる |
つまり、「国債 返済 必要ない=リスクがゼロ」というわけではなく、返さなくても持続可能な制度設計と通貨の信認維持がセットで必要だということです。
まとめ|「国債発行は問題ない」の“嘘と本当”
正しい理解で日本の財政を見直す
本記事を通して見えてきたのは、「国債発行=危険」でも、「国債発行=まったく問題ない」でもないという現実です。
重要なのは、次のような前提を正しく理解することです:
- 日本は通貨発行権を持つため、他国と比べて財政運営に柔軟性がある
- 国債は日本銀行や国内機関が多く保有しており、国際依存が低い
- 一方で、金利・インフレ・信認の3点セットの維持は不可欠
短期的な問題と長期的リスクを切り分ける
短期的には、「国債発行は景気対策や福祉支出に効果的」であり、返済を急ぐ必要はないと考える専門家も多くいます。
しかし、長期的には以下のようなリスクが現れる可能性があります:
- 利払い費の増大
- 国債依存体質による政策硬直化
- 通貨への信頼の低下
したがって、短期と長期を切り分け、場面に応じた財政判断が求められます。
これから私たちが考えるべきこと
国債の議論は、専門家や政治家だけのものではありません。
私たち国民一人ひとりが:
- 「政府の借金」の正体を知り
- 「国債は誰に返すのか?」を理解し
- 「財政破綻とは何か」を考える
ことで、メディアや政党の言説に惑わされずに建設的な議論ができる土台が整います。
「国債発行は問題ない」と言い切るのではなく、何が「本当に問題」なのかを見極めることが、次世代に責任を持つ私たちの姿勢と言えるでしょう。